視覚障害者用情報機器あれこれ(その3) 
                                                                                                          Q:貴方  D:増本

                                                                          ネットワーク便り22号(2000年3月発行)から引用

 Q:前回、スクリーンリーダーについてうかがいましたが、その後、新しいものが発売されたと聞きましたので、今回はその情報からお願いします。

D:新聞などで報道されましたので、ご存じの方も多いと思いますが、昨年9月、海外でも実績のあるWindows画面読み上げソフト「アウトスポークン」日本語版が新たに発売されました。このソフトはオランダのAlva社が開発したもので、12ヵ国語に対応しているため世界各国の視覚障害者(以下、視障者と略す)が利用しています。

 Q:新聞には本会顧問の石川准先生のお名前も出ていたそうですが?

 D:日本語版の開発研究に携わったのが石川先生です。

 Q:前回うかがったPC-Talkerや95/98 Readerなどとはかなり違うものですか。

 D:このソフトの一番素晴らしいところは、視障者にもWindows画面のレイアウトがイメージできるということです。

 Q:それはどういうことですか。

 D:Windows画面は絵(グラフィック)が中心ですが、その中にタイトルバーやステータスバー、ツールバー、あるいはメニューバーやメッセージ、さらに様々なボタンなどなどが表示されています。PC-Talkerや95/98 Readerでは、これらの情報を特定のキー操作によって音声化し確認しています。しかし、これらの操作機能は画面に出ているメッセージは確認できますが、それが画面のどの部分に表示されているかなどということは全く分かりません。

 Q:図表の説明が下手なボランティアが、図表のレイアウトなどを説明しないで文字だけを読み上げる状況に似ていますね。

 D:確かに、それで用は足りるかもしれませんが、これではWindowsの環境を晴眼者と同じレベルで享受することは到底不可能です。

 Q:アウトスポークンにより、それが解決されたのですか?

 D:画面構成が全て分かるというわけではありませんが、読み上げ部分や注目部分(フォーカス部分)を左右上下に移動することにより、各種のメッセージバーが画面のどのへんにあるのか。そして、そこには何が表示されているのか。どんなボタンがどんな順序で並んでいるのかなどが良く分かるようになっています。更に、目的の場所でキー操作によるクリックも可能です。つまり晴眼者がマウスを使って画面を操作するのと同じような感覚が味わえるわけです。これは感動の一言です。

 Q:Windowsも徐々に視障者に使いやすくなってきますね。

 D:これからがますます楽しみです。ところで、アウトスポークンはもう一つ期待される機能があります。それは、今、述べた画面情報がピンディスプレイでも確認できるということです。

 Q:ピンディスプレイってなんですか。

 D:画面の情報を点字で提示する装置のことです。大きさは機種によって異なりますが、日本で有名なKGS社のものはおよそB5パソコン位の大きさです。上面の手前に点字を表示するピンが40マスとか46マスとか並んでいます。そして、このピンが点字を表示するわけです。

 Q:アウトスポークンはマウス感覚による画面情報をそのピン点字で確認できるということですか?

 D:その通りです。データによっては音声より点字の方が良いものもたくさんありますからね。でも、このWindows画面がピンディスプレイで触感できるようになるということについては、他に大きな意義を持っていると思います。

 Q:他の意義というのは?

 D:最近、私は盲聾者の皆さんとパソコンを勉強する機会が良くあるのですが、盲聾者の皆さんは今までDOSしか操作することができませんでした。しかし、Windowsのスクリーンデーターがピンディスプレイで確認できるとなれば、盲聾者もWindowsにアクセスできる可能性が出てきたことになります。これは大変喜ばしいことです。すでにDOSレベルでパソコン通信やインターネットにもアクセスしていますが、今後Windowsの操作が可能になれば、盲聾者の情報量は飛躍的に広がることになるでしょう。そして、このピンディスプレイを使ったシステムが盲聾者と社会をつなぐ重要なツールの一つになるのではないかと思っているのです。

 Q:盲聾者がピンディスプレイを使ってパソコンをあやつる姿なんて本当に素晴らしい光景ですね。

 D:ところで、話を戻しますが、実はアウトスポークンのピンディスプレイ対応で残念なことが一つあるのです。

 Q:え、それは何ですか?

 D:それは、現段階では日本の標準とも言えるKGS製のピンディスプレイに対応していないということです。国内で最も利用者の多いKGS製が使えないというのは大変残念なことです。でも、幸いなことに、アウトスポークン発売後、間もなく95/98 Readerがピンディスプレイ対応になり、しかも、国産ピンディスプレイをサポートしていたのです。これには心からほっとしました。

 Q:そうなると、残りのPC-Talkerもそのうちピンディスプレイ対応になるでしょうね。

 D:早くそうなってほしいです。アウトスポークンもいずれ、国産に対応すると思いますし、そうなればPC-Talkerも対応せざるを得なくなるでしょう。そうそう、PC−Talkerと言えば前回、ExcelやWordには対応していないと言いましたが、昨年後半にバージョンアップが行われ(Ver 3.0)、それと同時にExcelとWordに対応するようになりました。

 Q:視障者用に開発された特別なソフトでないと使えないというのは不便ですからね。

 D:アメリカでは1986年に、リハビリテーション法で、コンピュータ関連機器は障害者を含めて全ての人に利用可能でなければならないと規定しました。我が国でも1990年6月に通産省が「情報処理機器アクセシビリティ指針」を公表し、障害者にも利用可能な機器の開発を各社に呼び掛けています。

 Q:そういえば、Windowsにはテキストリーダーとか画面拡大の機能あるいはモノクロ逆転など補助機能が多少はありますね。

 D:Windows自身が、障害者を考慮した機能を最初から持っていれば、特別なソフトを購入する必要もなくなるのですが、現在の付加機能では到底満足できるものではありません。

 Q:高齢者や障害者のコンピュータアクセシビリティも叫ばれていますので、企業はもっと努力してほしいですね。

 D:日本IBMが来年度中の実用化を目指して研究しているシステムはおもしろそうですよ。

 Q:どんなシステムですか。

 D:市販のパソコンを購入しても、自分が使える環境に(文字の大きさや見やすい色の設定、音声出力など)まで設定するのはなかなか大変です。今研究されているシステムは各自に合わせた設定を自動的に行うものです。ユーザーはパソコンから出てくる音声の質問に応えていくだけで、文字の大きさや、配色、音声読み上げ機能などの設定を自動的に行ってくれるものです。そして、更にうれしいことは、そうした各自に適した設定情報をICカードに記憶させれば、どのパソコンでも同じ環境で使えるようにできるというものです。

 Q:それは大いに楽しみですね。障害者でなくても喜びそうですね。今日は有難うございました。

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 視覚障害者情報機器アクセス支援グループ

 代表  増本 旭

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