視覚障害者情報機器アクセス支援グループの活動(2)
      盲聾者とパソコンについて
                           ネットワークだより 26号(2001年7月)に掲載

                                             Q:貴方  D:増本
Q:去る5月27日にはCATS(視覚障害者情報機器アクセス支援グループ)の総会が開催され、「盲聾者とパソコン」と題する講演会も会場で行われたと聞きました。そこで今回はCATSの活動の一つでもある盲聾者へのパソコンサポートについてお聞きします。
D:講演していただいたのはNさんという(全)盲聾者です。パソコンを始めて1年半ぐらいの方です。パソコンは旧98を使っています。使っているソフトはDOS上で動く点字エディタとワープロです。

Q:盲聾者はどのようにしてパソコン画面を確認しているのですか。
D:画面確認の方法をお話する前に盲聾者の日常のコミュニケーション手段について少し触れておきます。一口に盲聾者といっても視覚障害と聴覚障害の程度には様々な状態がありますので情報の受発信(話したり、聞いたりなど)手段もその状態により大きく異なってきます。日常のコミュニケーション手段としては点字、手話、文字、音声などをその人の障害の程度に合わせて用いることになります。点字を使える盲聾者は盲ベース(視覚障害が先行し後で聴覚障害が重なった人)に多く、手話は聴覚障害が先行した聾ベースの盲聾者に多く用いられています。もちろんこの場合、残存視力が無ければ触手話を用いることになります。

Q:音声や文字も用いられるのですか。
D:残存視力のある盲聾者には大きな文字を使います。また残存聴力のある盲聾者は補聴器を使って音声を聞く方もいます。

Q:ということはパソコン画面もそうしたものに置き換える必要がありますね。
D:そうです。今は画面の拡大表示はかなり自由に行えるようになってきましたし、音声化も以前と比べるとかなり良くなってきました。

Q:パソコン画面を点字に置き換えるということはできますか。
D:ピンディスプレイという装置を使うと画面情報を点字で確認できるようになります。

Q:それは良いですね。盲ベースの盲聾者にとっては心強い機器ですね。
D:この装置が開発されたため盲聾者がパソコンにアクセスできるようになったと言っても過言ではありません。

Q:Nさんもピンディスプレイを使っているのですか。
D:そうです。ピンディスプレイを使って点字データの編集やワープロで漢字仮名混じり文を書いたりしています。

Q:え!ピンディスプレイを使うと漢字も書けるのですか。
D:実は点字には漢字を表す方法が考え出されていますので、その方法を習得すれば点字で漢字を書くことが可能になります。

Q:漢点字とかというのがそれですか。
D:漢点字というのは8つの点を使って漢字を表す方式です。これ以外に6つの点を使って漢字を表す六点漢字というものもあります。Nさんは
以前漢点字を学習したことがありますのでピンディスプレイに出力される漢字が読みとれるわけです。

Q:今まで漢点字というのは漢字の形を点で表したものと思っていました。
D:結構そう思っている人も多いようですね。点字による漢字表現を知っているとパソコンで漢字を書くとき候補文字を探す必要がないので大変便利です。つまり点字入力パターンと漢字が1対1の対応になりますから。

Q:パソコン画面やメールあるいはインターネットは漢字仮名混じり文ですが、点字による漢字表記を知らない人はどうするのですか。
D:いくつか方法がありますが2つ紹介しましょう。一つは入手したメールや情報を自動点訳ソフトで点字にしてそれをピンディスプレイで読む方法。もう一つはリアルタイムに点字化するソフトを使ってピンディスプレイで読む方法です。

Q:リアルタイムに点字化しピンディスで読めれば時間的遅れがないためストレスなく内容確認ができて良いですね。ところで、画面情報の手話出力の方はどうなっていますか。D:点字が使えない聾ベースの全盲聾者が使えるパソコンの開発は全く進んでいないようです。画面情報を手の形をした装置で手話表現させるというシステムの開発も考えられますが手話では細かな表現が理解しにくいのでパソコンの情報入手には適さないと思います。

Q:そうなると聾ベースの全盲聾者はパソコンにアクセスできないわけですね。
D:現段階ではなかなか大変ですね。Nさんの話では現在パソコンを使っている盲聾者は全国で40人ぐらいとのことでした。そして、その多くが弱視聾とか盲難聴とのことです。つまり視力、あるいは聴力が若干残っている人たちなので音声ガイドや画面拡大それにピンディスプレイなどを併用して操作しているということです。Nさんのようにピンディスプレイのみを使って(使うしか方法がない)パソコン操作をしている全盲聾者は少ないようです。

Q:Dさんが関わっている盲聾者はどんな方ですか。
D:現在3名の盲聾者とパソコンの関わりを持っていますが、3人とも中途失聴ですので発語は全く問題ありません。視力についてはどなたも全くありません。聴力は補聴器を使えば多少聞こえる方が一人います。この方もその日の体のコンディションや耳の疲労具合で状態は大きく変わります。この方とNさんには指点字でこちらからの話を伝えます。もう一人の方は点字が不得手ということですので手のひらに1文字ずつ仮名を書いて伝えます。

Q:3人それぞれの対応ですね。
D:Nさんの場合、後で勉強するときに便利なようにということで、最近は大事なことについてはパソコン上の点字エディタを使って内容を伝えるようにしています。私がキー入力する内容がリアルタイムにピンディスプレイに表示され、Nさんに伝わります。そして、その内容はデータとしてパソコンに保存されます。

Q:それは良い方法ですね。
D:Nさんは鍼治療を仕事にしていますので、キーボードに慣れた患者さんとならこのシステムを使って会話するといった使い方もできますね。

Q:先ほどNさんの使われているソフトはDOS上ということでしたが、これは何か理由がありますか。
D:ピンディスプレイだけを使ってパソコン操作をするには現在のところDOSでしかうまくいきません。Windows上でもピンディスプレイは使えるようになってきましたが、まだまだ不完全です。まだ音声ガイドや画面拡大ソフトなどと併用する段階です。音声のみを使ってパソコン操作をしている視覚障害者が一カ所でも音声が出ない場所があると使いにくいと同じように、ピンディスプレイのみを使っている場合にも一カ所でもピンに表示されなければ困ってしまうことにもなりますからね。開発関係者の今後の研究に期待したいところです。盲聾者にとってのパソコンは盲聾者の社会参加を進めるという観点では視覚障害者以上に重要な道具となっています。是非、皆さん方の積極的な支援をお願いしたいと思います。

Q:今日は有難うございました。
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