雌鶏めんどり

雌鶏1

 戸をあけてやると、両脚をそろえて、いきなり鶏小屋から飛び下りて来る。

 こいつは地味なよそおいをした普通の雌鶏で、金の卵などは決して産まない。

 外の明るさに眼がくらみ、はっきりしない足どりで、二足三足庭の中を歩く。

 まず眼につくのは灰の山である。彼女は毎朝そこでいっとき気晴らしをやる習慣になっている。

 彼女は灰の上を転げ回り、灰の中にもぐり込み、そして羽をいっぱいに膨らましながら、激しく一羽搏はばたきして、夜ついたのみを振い落す。

 それから今度は深い皿の置いてあるところへ行って、この前の夕立でいっぱいたまっている水を飲む。

 彼女の飲み物は水だけだ。

 彼女は皿の縁の上でうまくからだの調子をとりながら、一口飲んではぐっと首を伸ばす。

 それが済むと、あたりに散らばっているえさを拾いにかかる。

 柔らかい草は彼女のものである。それから、虫も、こぼれ落ちた麦粒も。

 彼女はついばんで、疲れることを知らない。

雌鶏2

 時々、ふっと立ち止る。

 赤いフリージア帽を頭に載せ、しゃんとからだを伸ばし、眼つき鋭く、胸飾りも引立ち、彼女は両方の耳で代るがわる聴き耳を立てる。

 で、別に変ったこともないのを確かめると、また餌を捜し始める。

 彼女は、神経痛にかかった人間みたいに、硬直した脚を高くもち上げる。そして、指をひろげて、そのまま音のしないようにそっと地べたへつける。

 まるで跣足はだしで歩いているとでも言いたいようだ。