はと

 彼らは家の上でかすかな太鼓のような音を立てるにしても――

 日蔭ひかげから出て、とんぼ返りをし、ぱっと陽に輝き、また日蔭に帰るにしても――

 彼らの落着きのないくびは、指にめたオパールのように、生きたり、死んだりするにしても――

 夕方、森のなかで、ぎっしりかたまって眠り、かしわの一番てっぺんの枝がその彩色した果実の重みで今にも折れそうになるにしても――

 そこの二羽が互いに夢中になって挨拶あいさつを交し、そして突然、互いにからみ合うように痙攣けいれんするにしても――

 こっちの一羽が、異郷の空から、一通の手紙を持って帰って来て、さながら遠く離れた女の友の思いのように飛んで来るにしても(ああ、これこそ一つの証拠あかし)!――

鳩の挿絵

 そのさまざまの鳩も、初めは面白いが、しまいには退屈になって来る。

 彼らはひとところにじっとしていろと言われても、どうしてもそれができないだろう。そのくせ、いくら旅をして来ても、一向利口にならない。

 彼らは一生、いつまでたってもちっとばかりお人好ひとよしである。

 彼らは、くちばしの先で子供が作れるものと頑固に思い込んでいる。

 それに、全くしまいにはやりきれなくなって来る――しょっちゅうのどに何か詰っているという、例の祖先伝来の妙な癖は。

記号

 二羽の鳩が、ほら「さあ、こっちにきて、あんたビヤン・モン・グルルロ……さあ、

 こっちにきて、あんたビヤン・モン・グルルロ……さあ、こっちにきて、あんたビヤン・モン・グルルロ……」

注 鳩のき声「モン・グルルロ」は、ここでは親しい者(雄鳩)に呼びかける「モン・グロ」と似せている。