鵞鳥がちょう

 チエンネットも村の娘たちとおんなじに、パリへ行きたいと思っている。しかし、その彼女が鵞鳥の番さえできるかどうか怪しいものだ。

 実をいうと、彼女は鵞鳥を追って行くというよりも、そのあとについて行くのだ。編物をしながら、機械的に、その一団のあとを歩いて行くだけで、あとは大人のように分別のあるトゥウルウズの鵞鳥に任せきりにしている。

 トゥウルウズの鵞鳥は、道順も、草のよしあしも、小屋へ帰る時刻もちゃんと知っている。

 勇敢なことにかけては雄の鵞鳥もかなわないくらいで、悪い犬などが来ても立派に姉妹きょうだいの鵞鳥たちをかばってやる。彼女のくびは激しく震え、地面とすれすれに蛇のようにくねり、それからまたまっすぐに起き上がる。その様子に、チエンネットはおろおろするばかりで、これには顔色なしである。で、万事うまくいったと見ると、彼女は意気揚々として、こんなに無事におさまっているのは誰のおかげだと言わんばかりに、鼻声で歌い始める。

 彼女は、自分にはまだそれ以上のこともできると堅く信じている。

 で、る夕方、とうとう村を出て行く。

 彼女はくちばしで風をきり、羽をぺったりくっつけて、道の上をぐんぐん歩いて行く。女たちは、すれちがっても、こいつを止める勇気がない。気味の悪いほど速く歩いているからだ。

 そして一方でチエンネットが、向うに取り残されたまま、てんから人間の力を失ってしまい、鵞鳥たちとおんなじに何の見分けもつかなくなっているうちに、トゥウルウズの鵞鳥はそのままパリへやって来る。

鵞鳥の挿絵1
鵞鳥の挿絵2