森の繪が引出す記憶には限りがない。 竪一尺横一尺五寸の粗末な額縁の中にはあらゆる幼時の美しい幻が畳み込まれていて、折にふれては畫面に浮出る。 現世の故郷はうつり變つても畫の中に寫る廿年の昔はさながらに美しい。 外の記憶がうすれて來る程、森の繪の記憶は鮮やかになつて來る。
他郷に漂浪しても此繪だけは捨てずに持つて來た。 額縁も古ぼけ、紙も大分煤けたやうだが、「森の繪」はいつでも新しい。