暖かい縁に背を丸くして横になる。 小枝の先に散り残つた枯れがれの紅葉が目に見えぬ風にふるえ、時に蠅のような小さい虫が小春の日光を浴びて垣根の日陰を斜めに閃く。 眩しくなつた眼を室内へ移して鴨居を見ると、ここにも初冬の「森の繪」の額が薄ら寒く懸つて居る。

 中景の右の方は樫か何かの森で、灰色をした逞しい大きな幹はスクスクと立ち竝んで次第に暗い奥の方へつゞく。 隙間もない茂りの緑は霜にややさびて得も云われぬ色彩が梢から梢へと柔らかに移り變つて居る。 コバルトの空には玉子色の綿雲が流れて、遠景の廣野の果の丘陵に紫の影を落す。 森のはづれから近景へかけて石ころの多い小徑がうねつて出る處を橙色の服を着た豆大の人が長い棒を杖にし、前に五、六頭の牛羊を追うてトボトボ出て來る。 近景には低い灌木が處々茂つて中には箒のような枝に枯葉が僅かにくつ付いて居るのもある。 あちらこちらに切り倒された大木の下から、真青な羊歯の鋸葉が覗いて居る。

 寧ろ平凡な畫題で、作者もわからぬ。 が、自分は此繪を見る度に静かな田舎の空気が畫面から流れ出て、森の香は薫り、鵯の叫びを聞くような気がする。 その外にまだなんだか胸に響くような鋭い喜びと悲しみの念が湧いて來る。