「坊やお手々を片方お出し」とお母さん狐がいいました。その手を、母さん狐はしばらく握っている間に、可愛いい人間の子供の手にしてしまいました。坊やの狐はその手をひろげたり握ったり、つねって見たり、いで見たりしました。

「何だか変だな母ちゃん、これなあに?」と言って、雪あかりに、またその、人間の手に変えられてしまった自分の手をしげしげと見つめました。

「それは人間の手よ。いいかい坊や、町へ行ったらね、たくさん人間の家があるからね、まず表にまるいシャッポの看板のかかっている家をさがすんだよ。それが見つかったらね、トントンと戸をたたいて、今晩はって言うんだよ。そうするとね、中から人間が、すこうし戸をあけるからね、その戸の隙間すきまから、こっちの手、ほらこの人間の手をさし入れてね、この手にちょうどいい手袋頂戴って言うんだよ、わかったね、決して、こっちのお手々を出しちゃ駄目だめよ」と母さん狐は言いきかせました。

「どうして?」と坊やの狐はききかえしました。

「人間はね、相手が狐だと解ると、手袋を売ってくれないんだよ、それどころか、つかまえておりの中へ入れちゃうんだよ、人間ってほんとにこわいものなんだよ」

「ふーん」

「決して、こっちの手を出しちゃいけないよ、こっちの方、ほら人間の手の方をさしだすんだよ」と言って、母さんの狐は、持って来た二つの白銅貨はくどうかを、人間の手の方へ握らせてやりました。