ある窓の下を通りかかると、人間の声がしていました。何というやさしい、何という美しい、何と言うおっとりした声なんでしょう。

  「ねむれ ねむれ

   母の胸に、

   ねむれ ねむれ

   母の手に――」

 子狐はその唄声うたごえは、きっと人間のお母さんの声にちがいないと思いました。だって、子狐が眠る時にも、やっぱり母さん狐は、あんなやさしい声でゆすぶってくれるからです。

 するとこんどは、子供の声がしました。

「母ちゃん、こんな寒い夜は、森の子狐は寒い 寒いっていてるでしょうね」

 すると母さんの声が、

「森の子狐もお母さん狐のお唄をきいて、洞穴ほらあなの中で眠ろうとしているでしょうね。 さあ坊やも早くねんねしなさい。森の子狐と坊やとどっちが早くねんねするか、きっと坊やの方が早くねんねしますよ」

 それをきくと子狐は急にお母さんが恋しくなって、お母さん狐の待っている方へんで行きました。