幸せ者の母より

          T君(3歳)のお母さん


 拝啓,神様御無沙汰しております。貴方には息子が生まれた時から大変お世話になりました。でも,最近はほとんどお付き合いがなくなりましたね。
 五年前,息子の出産直後には随分ご迷惑をおかけいたしました。
『どうして私の息子だけヘソの緒を首に二重に巻いて生まれてきたのですか?どうして仮死だったの?私が何をしたというのですか?世の中にはもっと悪い事をしている人,いっぱいいるじゃないですか。うちの子は,これからどうなっていくの?』
と暇さえあれば貴方に訴えていましたね。貴方を憎んだりもしました。泣いたり愚痴を言ったり,今思い出すと恥ずかしくて穴があったら入りたい気持ちです。
 でも,いつ頃からでしょうか,貴方への嘆きは徐々に無くなったような気がします。友達や病院の先生,看護婦さん等に励まされ,また主人も一生懸命育児を手伝ってくれたので貴方が必要なくなっていたんですね。
 いこいの家に入っていてからは息子自身も一層表情が豊かになり,同時に我が家も明るくなっていきました。生後五ヵ月の時,夜中にひとりベットの上に座り込んでいる私に主人が気付き,『どうしたの?』の問い掛けに『だって,この子笑わないんだもん。』と泣いていた私。どんな家庭だったか想像つきますよね。
 それが今では家族三人声を出して笑ってる。泣く事,食べる事,そして笑う事。手を使う事,話す事,そして歩く事。そんな一つ一つがどれ程尊い物であるか,息子がいなかったら私は一生気付かずにいたのかもしれない。
 子供に教えられて成長している気分です。けいれん発作で死んでしまうかと思った事が何度あったでしょう。でもその度に家族の絆は強くなり,周りの人達に支えられて乗り越えてきました。病院でいっぱい友達ができたんですよ。そして自然に貴方の存在は私の中から薄れていったのです。
 今,この手紙にペンを走らせる私をニコニコしながら見ている息子を横に,一言だけ言わせてくださいね。私にこんな可愛い子供を授けてくれてありがとうございました。わたしの大切な宝物です。そしてこの子の事でもう貴方を困らせたりはしませんから安心して見守っていてください。
 もう大丈夫,私には息子がいたからこそ知り合えた人達が貴方に代わっていっぱい力を与えてくれるから。人間っていいですね。
 それではこの辺でペンをおきます。先ずは御礼方々ご挨拶迄

 かしこ


Copyright(C) 1995 静岡市心身障害児福祉センター「いこいの家」
出典:いこいの家通信 No.161
静岡市心身障害児福祉センター「いこいの家」
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