目の前のぼくを見て!

          Sくん(4才)のお母さん


その頃の息子の態度は、私を途方に暮れさせていた。食事のたびにお皿ごと料理を投げつける、突然兄たちにかみつく、私が用事をしようとすると飛びかかってきて妨害する。家事ができないだけでなく、息子がいると食事をするのも、トイレに行くのも、顔を洗うのも、ものすごく大変と言う日々が何ヶ月か続いていた。

そんな九月のある日、いこいのクラス担任の先生方が心配そうに「Sちゃん、どうしちゃったのかな。何か指示しようとしても泣いてしまって受け付けてくれないよ。」とおっしゃった。別のクラスの先生にも「Sちゃんは必ず伸びるからお母さん無理しないで。」と励まされた。この先生は、私が歩かない息子を鬼のような形相でひきずっているのを偶然見かけてから、気にかけてくださっている。どうしてこんなこともできないんだろう、でもやらせなきゃ一向に出来ない、そんな気持ちで私は息子と接していた。

五月から始めたドーマン法の訓練のための面接に行く前日のことだった。今までいろいろなことをやってきたが息子があまりにも伸びないので意を決して、朝晩ドーマン法の訓練をやることにしたのだった。それがこんなことになるなんて。真っ暗な気分だった。ちょうど訓練を始めた時期と息子の荒れだした時期、そして次男の脱毛症が始まった時期も重なっていた。訓練がいい結果を生むどころか皆のストレスになっているという思いが強くなった。

面接をしてもらう研究所には、バス、新幹線、電車を乗り継ぎ、駅からはちょっと歩く。息子は、ちょっとの距離も歩かない事が多いのだが、その日はずっと落ち着いていて、自分で歩き、三時間あまりの面接の間も穏やかに過ごした。もう訓練は続けられないと思って研究所を訪れたのだが、助手の方と話すうちに、私は冷静に息子の状態を見られるようになった。一日中、泣きわめいているわけではない。泣くのには息子なりの理由があるはずだ。話すことはおろか、自分の意志を表現するすべもない息子ではあるが、私が考える以上にわかっていることが多いかもしれない。そしてわかることが、これからどんどん増えていくのだ。そう考えられるようになった。

次の日から息子の態度が変わった。いこいの先生方はこれを安定していると表現なさる。息子の様子をおっかなびっくりうかがう日々が過ぎ、゛安定゛は一ヶ月以上続いている。うまく表現できないが、息子は、目の前の自分をよく見てと私に訴えていたのではないかと思う。あるべき姿を思って息子を歩かせるのはつらいが、気楽に息子と散歩するのは楽しい。息子にとっても同じなのだ。

このことがあって、兄たちも含め、こどもたちを否定するのはやめようと思った。親バカといわれようと、目の前のこどもたちを゛愛゛で、その可能性を信じる親でありたい。


Copyright(C) 2002 静岡市心身障害児福祉センター「いこいの家」
出典:いこいの家通信 No.237
静岡市心身障害児福祉センター「いこいの家」
協力 ボランティア通信from静岡
ボランティア通信from静岡