血友病の内科診療     兵庫医科大学 血液内科 日笠 聡

血友病は遺伝疾患であり、多くの患者は小児科で医療を受け始めることになる。凝固因子濃縮性剤が開発されるまで血友病患者の生命予後は比較的短く、成人になる前に死亡していた患者も少なくなかった。1970年代に高度濃縮凝固因子製剤が開発され、これを使用した家庭治療が開始されたことにより、血友病の生命予後やADLは飛躍的に改善した。

少子化の影響も相まって、今後はさらに成人血友病診療の重要性が増してくるものと考えられるが、成人〜高齢者の血友病患者に関する医学的なデータ集積はこれから始まると言っても過言ではない。

血友病患者は誕生から死亡まで、血友病と共にLife eventを過ごす。従って、血友病を診療する医師の役割は、血友病患者が血友病をハンディキャップとせずに過ごせるように、ある時は専門家として止血管理を、ある時はホームドクターとしてあらゆる病気のプライマリケアを、ある時は代弁・調整などの医療サポートを、ある時は長期療養や緩和ケアを提供する役目をずっと担っていくことにある。さらに、これらの医学的治療だけではなく、心理、社会的な援助を含めた包括的な医療サービスを文字通り「ゆりかごから墓場まで」提供していく必要がある。

しかしながら、我々は今のところ、非インヒビター血友病患者の血中第VIII(IX)因子活性を短期間100%に維持することができるようにはなっただけであり、今後解決していかなければならない課題はあまりにも多い。今回これらの課題の中で、在宅自己注射療法の指導、インヒビター、整形外科的治療、HIV/HCV 感染の現状と対応、定期補充療法、高齢化、凝固因子製剤、等の各テーマについて内科医の立場から現状と問題点、解決のための方向性などを述べたいと思う。