「デジタル録音校正マニュアル」

目 次
1デジタル録音枠アナウンス
2校正の意義・目的
3校正の責任
4校正者に求められる資質
5校正の方法
6校正のチェックポイント
7校正表の記入のしかた
8デジタル録音図書製作のながれ
9校正表
10校正表別紙



  1. デジタル録音枠アナウンス         
    (書名)(副書名)(シリーズ名)    
    ○○○○著  ○○○○編  ○○○○訳
    録音図書凡例・・・・・・・・録音図書凡例終わり
    (以下原本記載順序に録音)
    原本凡例・・・・・・・・・・原本凡例終わり
    まえがき・序文・はじめに        
    目次・・・・・・・・・・・・目次終わり
    (本文)
    (あとがき・解説・参考資料・年表・文献・索引等)
    以下は  社より発刊されている(著者名)の作品リストです
    著者紹介(略歴)・・・・・・著者紹介(略歴)終わり
    原本奥付・・・・・・・・・・原本奥付終わり
    以上で (書名)(副書名)(シリーズ名)を終わります
    製作 静岡県点字図書館
    製作完了 200 年  月



  2. 校正の意義・目的
    録音図書の校正とは、墨字原本と照合して原本どおりに音声化されているかを音訳者以外の第三者が確認することです。
     執筆者に対しては著作権(第20条同一性保持権)を尊重する意味から、読者に対しては製作側の図書館との信頼性保持の意味から、原本に忠実かつ正確に音声化されているかを点検する必要があります。
     読者である視覚障害者は録音図書に疑問を感じても、辞書等で調べることには困難が伴います。未知の言葉を誤読すると、 誤って記憶されてしまう恐れがないとは言えませんし、周知の言葉の誤読はその録音図書全体への不信感を生じます。 厳密な校正が求められる所以です。
     加えて、録音図書は墨字から音声にメディア変換したものですから、原本どおりであると 同時に聞いてわかりやすい音声化がなされているかにも注意をはらう必要があります。たとえ書かれたとおり忠実に読まれていても、 原本を離れて音声だけで聞いた時に意味がわからなくては録音図書として役に立ちません。音声に変換するとわかりにくい言葉で あるからと安易に読みかえることは、同一性保持の観点から避けなければなりませんが、著作権法に抵触しない適切な処理や 音声表現への配慮がなされているかを確認するのも校正の大切な仕事です。

    著作権法第20条 同一性保持権
    「著作者はその著作物及びその題号の同一性を保持する権利を有し その意に反してこれらの変更切除その他の改変を受けないものとする」

    著作権法第20条第2項
    「前項の規程は、次の各号のいずれかに該当する改変については、適用しない」

    第2項第4号
    「・・・著作物の性質並びにその利用の目的、態様に照らしやむを得ないと認められる改変」  


  3. 校正の責任
    施設が製作する録音図書の最終責任は、施設にある。したがって、校正表にあげられた事柄に ついて、訂正するか否かの判断は施設が行い、その判断をもとに音訳者が訂正を行う。」  録音図書校正基準 全国視覚障害者情報提供施設協会 2005年3月施行   


  4. 校正者に求められる資質
    1. 文字と音声に対する関心
      1. 正しい言葉の知識
      2. 文意にあった漢字の読みの選択
      3. 音声化への配慮(適切な処理)
    2. 注意力
      音声(耳)と墨字(目)の両方を対応させ、てにおは等の助詞、清音、濁音、長音など細かい点まで確認する注意深さが求められます。
    3. 根気 
      得意な分野、好みの傾向の本ばかりとはかぎりません。どんな種類であっても最後まで気を抜かずに原本照合し、辞書等を丹念に当たる根気や忍耐力が求められます。
    4. 客観性
      • 自分に対する客観性
        校正者には謙虚さが求められます。誰にも思いこみがありますし、自分の知識が必ずしも正しいとは限りません。知識を過信せず、ある漢字(語句)が自分とは違う読みがされていたら、まず音訳者の読みで辞書を調べ直してください。 自分の知らない、新しい読みや意味があるかも知れません。
      • 相手に対する客観性
        ベテランだから、国語の先生だったからといった音訳者に対する先入観にとらわれず、また、先輩だから指摘しにくい等と遠慮することなく、あくまでも自分自身を客観的に校正者の立場へおいて校正にあたってください。
    5. 音訳と視覚障害者についての理解
      音訳とは、視覚障害者のために墨字をできるかぎり忠実かつ正確に音声に変換することです。この前提のもとに調査技術、処理技術、録音技術、音訳表現技術の全般にわたる知識をもって校正をおこないます。
    6. チームワークの意識
      音訳も校正も実際の活動場面は一人ですので、チームワークで成り立っていることを忘れがちです。録音図書は音訳者、校正者、モニタ、編集者、さらに装備チェックや貸出作業を行う人がいて始めて読者の手に渡ります。集団に帰属することを忘れずに校正を行ってください。



  5. 校正の方法
    1. 再生ソフト
      校正はLP Playerでも可能ですが、出来るかぎり、My Studio PCまたはPRS Proを使用してください。
    2. デイジー編集仕様書の確認
      データのプロジェクト名(半角アルファベット4字)がデイジー編集仕様書のプロジェクト名と同一であるか確認します。
    3. 同一原本を使用
      版が異なると、誤植が訂正されていたり、データが更新されていることもあります。 音訳者が使用した原本以外を使用するときは版を確認してください。
    4. 調査表と処理表を参照
      音訳者の調査表で典拠の記入がないもの、原本に音訳者が便宜上ふったルビ、典拠を インターネットとだけ記してあるものには注意してください。辞書で調べ直す必要があります。ただし、調査があまりにも不足していると判断された場合は、音訳者に差し戻しますので、図書館にご連絡ください。
    5. 再生音量は通常よりやや大きく
      音の確認のため、通常再生するよりやや大きめにして聞きます。ヘッドフォンでもスピーカーでも構いません。
    6. 録音時と同じ再生スピード
      等速以外の再生は細かい確認ができません。必ず等速で、また1フレーズずつ送って聞くのではなく、再生ボタンで通して再生します。
    7. すべてを聞く  
      データの最初から最後まですべてが校正の対象です。
    8. 一校のあと音訳者に戻さずに二校にまわします。一校か二校のどちらかをデイジー編集者を兼ねた校正者が行い、デイジー編集のための「録音図書凡例」の用紙を添えます。
    9. 音訳者のデータには手を加えないでください。指摘したい項目はすべて校正表(原本にチェックをつけることも可)に書きます。



  6. 校正のチェックポイント
    1. 構成面
      1. 『静岡県点字図書館デジタル録音図書枠アナウンス』にもとづき、録音順序や枠アナウンスが適切に録音されているか。
      2. プロジェクト名はデイジー編集仕様書に書かれたプロジェクト名どおりか。
    2. 録音技術面   
      1. 音量
        @-10db前後で録音されているか。
        A全体に同一の音量で録音されているか。
        B文末、語尾まで明瞭に聞こえるか。原本を見ていると、聞こえなくても聞こえた気になることがありますので注意が必要です。
      2. 雑音
        @外部の雑音
        車の音、小鳥の声、冷蔵庫のモーター音等の外部雑音はないか。また、パソコンのキーボードを勢いよくたたく音が録音されることもあります。   
        A音訳者が発する音 
        息継ぎの音、口内音、ポップノイズ(マイクに息がかかる音)、おなかの鳴る音、ページをめくる音、衣ずれの音等は音訳者自身が発する雑音です。その内、息継ぎの音と口内音は普通の音量で再生してかすかに聞こえる程度、本文理解の妨げにならない程度の場合は校正対象としません。それ以外の音は校正対象とします。
        B雑音に関してはわかる範囲でその種類を記入してください。
      3. 頭切れ・消し残り
        @ デジタル録音では、一つの音、例えば「サ」の「s」と「a」が2つのフレーズに分割され、頭切れと思われることがあります。 前のフレーズから通して再生し、不自然でなければ校正対象にしません。
        A 同様に、フレーズの終わりの方に音があっても、消し残りの雑音ではなく、次のフレーズに続く音である場合があります。通して再生し確認してください。 
      4. 音質
        @ こもったり、ひずんだりしていないか
        A 反響音はないか
        B 音割れはないか



    3. 音訳技術面
      1. 誤読
        @ 単純な誤読
        校正の最大の目的は誤読のチェックです。助詞“てにをは”や長音の読み違い、濁音、清音の読み違い等、単純な誤読も点検します。
        A 漢字の誤読
        調査表を参考にします。調査表にないもの、推測読みのもの、調査表や原本に音訳者がフリガナをつけたもので典拠のないものは、できる限り調査します。特に固有名詞(人名・地名)を典拠なく読んでいる場合は注意が必要です。固有名詞は町・村・山・川・寺等の読みも確認してください。漢字の読みを指摘するときは、校正者も典拠を必ず記入してください。読みが複数ある場合には、文意にふさわしい読みを選びます。どちらでも良いと判断される場合は音訳者の読みを優先します。
        B 読みの統一
        架空人名の読み等、統一して読むべき漢字が不統一になっていないか。
        C ルビ
        ルビの活字は促音、拗音も同じ大きさのことがあります。
        例 突慳貪(ツツケンドン)  ×ツツケンドン   ○ツッケンドン
        ルビを先に読むか、もとの語を読んだ後でルビを読むか、繰り返されるルビをどう処理しているかにも注意します。また原文のママの「ママ」をルビと勘違いする人がいるので注意してください。
      2. 脱字・脱文・ダブりはないか
        行やページの脱落以外に注や図表の読み飛ばしがないかどうか注意します。またコピー、切り取り、貼り付け等の結果、1フレーズ抜けてしまったり、重複したりがないかも確認してください。
      3. 誤植
        @ 誤植は原則として訂正しません。従って、音訳者が誤植を誤植のまま読んでいる時に、校正者に典拠がなければ訂正の指摘はしません。音訳者が典拠なく誤植を訂正して読んでいる時も、校正者が少しでも疑問を感じたら、原本のまま(誤植のまま)読むよう 指摘します。
        A 誤植を訂正して読むのは以下の場合です。
        • 訂正の典拠がある。
        • 典拠はないが、音訳者が誤植を訂正して読み、校正者もその訂正に賛同する。
          ただし、調査表に「誤植を訂正して読んだ」との断りがない場合は、音訳者が意識せず訂正している可能性があります。今後の参考のために、校正表に「誤植と思われるが、訂正してかまわないと思う」旨を記入してください。
      4. 不明瞭な読みはないか
        聞き取りにくい箇所、トチリ、読み詰まり等がないかを点検します。不明瞭な読みに対してはどう聞こえるかをわかる範囲で記入してください。特にサ行、タ行の子音に不明瞭な点がないか、注意してください。
      5. 処理
        処理表を参考にします。ただし、処理表の通りに読まれているかではなく、内容にふさわしい処理であるかどうかを判断の基準にします。
        @ 全体が統一された処理になっているか。処理の方法にばらつきがないか。
        A 活字符号の音声化
        符号をすべて音声化すると(符号の読みを入れると)、逆に内容理解の妨げになることもあります。音訳表現のみで可能かどうか、処理が必要かを判断します。
        B 同音異義語・漢字の補足
        同音異義語は熟語、音訓読み、意味、偏や旁等で説明する方法があります。適切な方法が選ばれているかを確認します。文章の前後から意味が分かる場合は、説明の必要はありません。
        C 引用文
        音訳表現のみを使う、活字符号を読む、引用であるとの断りを入れる等の方法がありますが、ふさわしい処理になっているかどうか確認します。
        D 図表、写真、注
        挿入箇所、説明の方法、枠アナウンスが適切かを確認します。特に数値、単位の読み違いはないか、複数ある場合に説明の度合いにばらつきがないかに気をつけます。図表、写真等を省略する場合は録音図書凡例等で断りがなされているかにも注意が必要です。ただし、イラスト、さし絵は断りを入れずに省略する場合もあります。
      6. アクセント
        アクセントは原則として校正対象としませんが、同音異義語等アクセントの違いで意味が変わってしまうもの、意味がわからなくなるものは校正対象とします。なお、タイトル、主人公名などキーワードとなる言葉は意味が通じるものであっても共通語アクセントにします。
      7. ポーズ
        @ 適切な長さのポーズであるかを確認します。録音設定で「録音検知時」を選択すると、フレーズの先頭にポーズがはいらないため、フレーズとフレーズの間が極端に短い場合があります。前のフレーズから流して再生し確認してください。
        A ポーズが他のところと比べて長すぎないか。特にフレーズの後に無用な長いポーズがないか、無音のフレーズがないか注意します。
        B 原本の句読点どおりにポーズをとっているかどうかではなく、内容が正しく伝わるようなポーズであるかどうかを点検します。句読点は表記上の約束事ですので、音声上のポーズとは一致しない場合があります。
      8. 区切り方、つなぎ方
        @ 文章の区切り方、言葉のつなぎ方によって、意味が変わってしまうところ、意味がわからなくなるところはないか確認します。原本照合の前後に、音声のみで確認することも有効です。
        A 熟語、成語の区切り方にも注意を払います。
      9. 読みのスピード
        @ 全体的に文意の取りやすいスピードであるかを点検します。スピードには個人差がありますが、録音図書の平均的なスピードは、1分間に450〜550字位(漢字仮名交じり文)です。 
        A 全体を通して一定のスピードであるかに注意します。
      10. 気になる読み癖、アクセント、読みの未熟さ等  
        文意を取り違えるおそれのない時は校正対象とはしませんが、快適な読書の妨げになるような読みは、今後の努力目標とするため、校正表別紙にあげます。 無声化、鼻濁音に関しても同様です。



    4. 校正表の記入のしかた
      1. 校正表と校正表別紙に書名と校正者名を記入します。校正者名にはフリガナをつけてください。 
      2. 校正対象になる事項はすべて校正表に記入します。校正対象にはならないが、気にかかる事項は校正表別紙に記入してください。
      3. 校正対象になるかどうか、迷ったら校正表に記入します。そのためにも気になった事項は最初からもらさずメモ等に記入しておきます。
      4. 判断が付かないときは備考欄に?を記入します。二校者が一校者の校正に疑問を持った時も備考欄にその旨を記入します。
      5. セクション番号、ページ、行を記入します。フレーズ番号もできれば記入します。数字は算用数字で書きます。ページや行の書き違え、書き忘れのないようご注意ください。 行の後ろから○行目、段の下から○段目は − を使います。例 後ろから3行目→−3  下から5段目→−5
      6. 一校者は5〜6行記入したら、2〜3行あけてください。二校者が追加の校正を記入する時は、ページ、行のできるだけ近くに記入してください。
      7. 一度指摘した語句が2度以上別の箇所に出てくる場合もその都度もれなくひろい、ページ順に記入します。一箇所にまとめて記入することは訂正もれの原因になります。
      8. 「音訳者の読み」と「校正者の読み」への記入は語句を省略せず、必ず対応させます。
      9. 漢字の読み、読みの選択、その他補足は備考欄に典拠を記入します。特にアクセントは必ずアクセント辞典の表記に従います。
      10. 原本に印を付ける時は鉛筆でお願いします。
      11. 音訳者のデータには手を加えないでください。指摘箇所はすべて校正表に書きます。
      12. 読みやすい字で正確に記入してください。
      13. 校正が終了したら、デイジー編集仕様書の「一校終了しました」あるいは「二校終了しました」に月日を記入します。
      14. 個人のカバーやクリアファイル等は、はずして、棚を間違えないようにご提出ください。校正に図書館の外付けハードディスクを使用したときは、スタジオ内の引き出しにお戻し下さい。



    5. デジタル録音図書製作のながれ 
      原本選書(図書館)→音訳者へ依頼(図書館)→調査・処理(音訳V)→ 録音(音訳V)→ 聞き返し(音訳V)→聞き返し(音訳V)→チェック(図書館)→一校(校正V)→チェック(図書館) →二校(校正V)→チェック(図書館)→訂正(音訳V)→チェック(図書館)→モニタ(訂正後モニタV) →チェック(図書館)→デイジー図書編集(デイジーV)→デイジー図書校正(デイジーV) →CD製作(デイジーV)     
       


        
    6. 校正表
      校正表の1例の写真

    7. 校正表別紙
      校正表別紙の1例の写真   


                                    

      静岡県点字図書館録音図書校正マニュアル 平成8年(1996年)  
      静岡県点字図書館デジタル録音図書校正マニュアル 平成18年(2006年)4月    
      平成19年(2007年)3月データ版作成にあたり一部改訂  
      発行 静岡県点字図書館 文責 熊谷成子

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