オープン・コミュニケーションとデス・エデュケーション
浜松医科大学小児科 藤井裕治
オープン・コミュニケーションの重要性
 3歳を過ぎれば、終末期の子どもたちはたとえ病状を知らされていなくても、自分の病気の重篤さや迫り来る死に気付き、まわりの人に死の不安や恐怖を表現すると言われています1)。私たちの経験でも、終末期の小児がん患児の約3分の1の子どもに死に関する言語的表現が認められました2,3)。このような死の不安や恐怖を表現した子どもたちに対して、医療者や家族がその死を嘘をついて否定したり無視したら、その子たちは死の不安や恐怖を胸にしまい込んだまま、ひとりで死の恐怖と戦いながら死を迎える危険性があります。

 死にゆく子どもたちのストレスや死の不安と恐怖を軽減するためには、病初期からの嘘のないオープン・コミュニケーションが必要であると言われています。子どもたちは病気を知ることで病気に対処する能力を養い、医療者との信頼関係を増し、治療に積極性が生まれてきます。さらに子どもたちは、たとえ予後が悪かったり、終末期を迎えても知ることで強さを得ると言われています。実際に終末期の子どもたちの中には、死の不安や恐怖だけでなく「今までありがとう(12歳女児、死亡3日前)」、「順番からだとお母さんが先だけど、僕が死ぬまでお母さん、先に死なないでね(7歳男児、死亡2週間前)」などと『死の受容』とも解釈される表現をしている子どももいます。

 でも終末期になってから急にオープン・コミュニケーションを開始しようとしても難しく、患児と死について話すことも不可能です。そのために診断時 (治療開始前)からの病気説明を始めとするオープン・コミュニケーションが大切となってきます。そこで診断時からの患児への病気説明やデス・エデュケーションを含んだオープン・コミュニケーションの方法について考えてみましょう。

血液・悪性腫瘍患児に対する病気説明とデス・エデュケーション
 診断時(治療開始前)には、患児に対して年齢や理解度に応じてイラストや平易な言葉を用いて、病気(病名・病態)の説明、検査の必要性、そして治療には長い時間がかかり副作用もあることを伝える必要があります。『本当の病名』にこだわる必要はなく、病態が十分に理解されれば患児は検査や治療に対して積極性を示します5)。『本当の病名』に関しては、患児が知りたいとの思いが出現した時がその患児にとって『本当の病名』が必要な時であり、伝えられるべき時であると考えます。そして、発症時からこのような病気説明だけでなく“健康のありがたさ”“家族の良さ、友達といる時の楽しみ、学校での学ぶおもしろさ”さらには“生きる辛さや喜び”などを機会がある度に、患児や両親とともに医療者としての立場からだけでなく時には友達のように一緒に考え感じ、それを表現できるよう支援していく姿勢が医療者には必要であると思われます。それがその子にとってのデス・エデュケーション(いのちの尊さの共感)であり、そのためには診断時からの“嘘をつかない”を基本としたオープン・コミュニケーションの確立が前提となります。

そしてこのデス・エデュケーションのためのひとつの道具として、様々な絵本や児童文学書が役立つと思われます

参考文献

1.子どもが考える「死の概念」の発達. ターミナルケア 12(2)/88〜92 2002(藤井裕治)

2.終末期の小児がんの子どもたちに認められた死の予感と不安 日児誌 106(3)/394〜400 2002(藤井裕治、他)

3.Analysis of the circumstances at the end of life with cancer: Symptom, suffering, and acceptance. Pediatr. Int. 45(1)/60〜64 2002(Hongo T., et al.)

4.終末期の子どもたちへの説明. 緩和医療学 4(3)/200〜207 2002(藤井裕治)

5.病気説明を受けた小児血液・悪性腫瘍患児における病気の理解度. 小児がん 39(1)/24〜30 2002(藤井裕治、他)

6.病棟における絵本の利用プラン. 病気の子どもと医療・教育 9(2)/96〜97 2001(藤井裕治)
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