第20回 がんの子どものターミナルケア・トータルケア研究会 Report
静岡県立静岡がんセンター小児科 天野功二

「ターミナルケア」誌に掲載(14:228-229,2004)

 「がん」にかかった子どものターミナル期には、本人への告知や親御さんへの精神的サポートなど、成人患者さんの場合とはいくぶん質の異なるケアが医療者に求められます。「がんの子どものターミナルケア・トータルケア研究会」は静岡県内の小児科医や看護師によって、このようながんの子ども達のケアのあり方を研究、発表する会として平成5年から開催されてきました。当初はターミナルケアに主眼がおかれていましたが、最近では出席者の職種も多岐に渡り、がんの子ども達に関わる幅広い問題が討議されています。20回目となる今回の研究会は、当番世話人を務めさせていただいた私が勤務する静岡がんセンターを会場に約100名の出席者を得て行われました。
 今回の特別講演では、山梨英和大学の若林一美先生から「グリーフケアについて 〜子どもの死と遺族の悲嘆〜」と題した話をお聞きしました。若林先生は子どもを亡くした親の会「ちいさな風の会」を長く主催されてきた方で、その活動の中で実際に関わってこられた多くの親御さん達との経験を紹介いただきました。子どもを亡くすことは未来をなくすに等しいこと、遺された者の悲しみは時がいくら過ぎても決して消えるものではないこと、思慮の足りない言葉に傷つくことが多いこと、社会の中ではひっそりと生きていくしかないと感じていること、等。私はこれまでに何人もの子どもを見送ってきましたが、親御さん達がこのような日々を過ごされていることに思いを馳せたことがあっただろうか、と考えながらご講演を伺いました。先生の話される言葉の一つ一つに心が揺さぶられ、自分自身を振り返る時間となりました。
 残念ながら子どもが亡くなった後にご家族を支える十分なシステムが我が国にはありません。各地域に親の会がありますが、専門家が関わっている組織は多くないのが現状です。ただ今回の研究会には、お子さんを亡くされたご家族が何組か来られていました。定期的にこのような会を開いていくことは、ご家族が医療者とのつながりを感じ続けられることになり、ひいては何らかの支援のための活動につなげられるのではないかと考えました。
 一般演題では、各施設から様々な報告がありました。チャイルドライフプログラムの実践、学校教育の問題、親の会の活動報告等です。またがんの子どもの兄弟への対応や、病棟における食事の持ち込みについての報告では、フロアーの出席者を含め各施設の現状について活発な意見交換がなされました。このような具体的な問題についての情報交換は、地域の研究会であるからこそ可能なのではないかと感じました。また本研究会は医療者が臨床現場における悩みを率直に表出できる場ともなっており、全国学会とはまた違う満足感を感じた出席者もいたのではないでしょうか。
 がんの子ども達の診療に携わっていると、彼らの姿に癒されることも多いのですが、逆に子どもであるが故の辛い経験もいろいろとあるものです。他施設の同じ思いの医療者との交流によって、明日からまた臨床へ出ていく勇気を得ることができるのも、本研究会に出席することの意義ではないかと考えています。
 がんの子ども達とそのご家族のために、さらには彼らのケアにあたる医療者のために、今後も着実に歩み続けられる研究会であることを望んでいます。
 尚、発表された内容の詳細については一部を本研究会のホームページ(http://www.e-switch.jp/total-care/)に掲載していますので、是非一度ご覧ください。ご意見もいただければ幸いです。
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