小児がん患児の入院生活における“食”に関する問題点の一考察

 静岡県立静岡がんセンター造血細胞移植病棟
   鈴木早苗、人見貢代、太田純子、細倉真由美、村本早苗


【はじめに】
当病棟では血液悪性腫瘍の患児が約80%を占め、ほとんどの患児に化学療法や放射線療法がおこなわれています。食事に関しては原則として持ち込み食を禁止し病院食の摂取を促していますが、入院経過と共に摂取量が低下する患児が多くみられます。そこで、入院中の食事に関して何が問題かを明らかにするため、分析・考察を行いました。

【対象とした2例の紹介】 
A君:男児、小学5年生、急性リンパ性白血病
治療経過:2003年8月 寛解導入療法、10月下旬 同種骨髄移植(前処置:CY+TBI、ドナー:妹)

Bさん:女児、小学6年生、左上腕骨骨肉腫 
治療経過:2003年3月 化学療法開始、6月 局所放射線照射後に左上腕骨骨肉腫の広範切除術
以後、術後化学療法を11月まで施行

【看護の展開:A君】
 療養環境は2人部屋または4人部屋。化学療法中は食事や食事環境に対する不満等は聞かれず、食事は良好に摂取されていました。
 移植前処置が始まると吐気・嘔吐が出現し、制吐剤にて症状コントロールを図りましたが、アイス程度しか摂取できませんでした。骨髄移植後より、口腔粘膜障害に加え、味覚障害も出現したため、甘味の強いデザートに変更することで摂取量の増加を試みました。また、患児が希望する食事内容を直接栄養士に話せる環境を整えるとともに、入院によるストレス軽減や経口摂取へのきっかけとなるよう菓子類の持ち込みも許可しました。しかし、結局この期間は副作用症状が強く、食事摂取はほとんどできませんでした。その間は、身体状況の改善とともに食事摂取も可能になることや現在は食べられなくても仕方ない状況であることを説明し、食べられない事実が患児の負担にならないよう配慮を行いました。また栄養士の訪室の継続と情報交換を密に行うことで、患児が食事への自信をなくさないよう関わりの統一を図っていきました。
 移植後12日目頃から口内痛が軽減し、希望の食事メニューを尋ねると食べたいものが挙がるようになってきましたが、希望の食品も味覚障害のため1口摂取するのみでした。
移植後25日目、食べたいものをリストアップし、その希望の食事を栄養士に相談し提供することにしました。その直後より摂取可能となり、徐々に通常の病院食への摂取へと切り替えました。

【看護の展開:Bさん】
 入院後約2ヶ月間は1〜2週間に1回の割合で化学療法が続き、制吐剤を使用し症状コントロールを図りました。この時期には食事形態や内容への不満等は聞かれず、半量〜全量の食事摂取ができていました。
入院生活も3ヶ月が過ぎた頃より「気持ち悪くないけどご飯を見ると食べられない」との訴えがきかれ始めたため、食事環境の改善を図ることで食事摂取量が増加できるのではないかと考え、他のこどもたちとともにプレイルームにて食事ができるように介入しました。患児からは「一人より楽しい。」との言葉がきかれ、半量以上の食事摂取量を維持できるようになりました。
 入院後約半年の時点で患部の広範切除術が施行されました。術後の症状安定に伴い4人部屋に移ったころより、食事摂取がすすまず配膳とともに部屋からでていく行動がみられるようになりました。術後の経過も良好のため外泊を繰り返すようになり、家庭では食事は十分に摂取できていましたが、外泊より帰院すると「気持ち悪くないよ。でも病院のご飯は食べたくない」と、病院では食事摂取量が著しく低下しました。そのため病院食の摂取を促しつつ、1日1食夕のみ母の手料理の持ち込みを許可しました。その結果、持ち込み食は良好に摂取する一方で、朝・昼は病院食を見ることさえも拒む状況は変わりませんでした。これらの摂食行動より長期の入院生活が多大なストレスになっていると判断し、治療日以外はなるべく外泊に出かけるようにしたところ、栄養状態および体重も改善していきました。

【考察】
 A君の場合、骨髄移植の副作用が出現する時期には、無理に食事摂取をしなくていいこと、症状が良くなれば食べられることを説明し、患児自身が食事摂取困難な身体状況であることを受容できるよう情報提供し、精神的な負担とならないように統一した関わりをもてた事は有効でした。また、食に関する意思表示を見逃さないことが重要で、身体症状が軽減した時期に希望の食事を提供できる環境を整えたことが食欲の改善と食事摂取量の増加につながったと考えられました。
 Bさんの場合は、食事環境の調整は必須であったと考えられました。しかし今回、一時的な効果しかなかった理由としては、当病棟が成人との混合病棟であり小児用病床が9床と絶対数が少ないため、会食を行うための人的環境を提供するのが困難な状況であったことが誘因の一つでした。さらにモジュール内での食事環境に対する意識が低く十分な環境調整を図れなかったことも原因でした。入院生活が長期化し、化学療法が繰り返される中で可能な限り外泊を考慮し病院外でリフレッシュの場を提供できた事は有効でした。しかし病棟として遊びやイベントが少なく生活習慣が確立されにくい状況であったことが、患児への食習慣に影響を及ぼしていたと考えられました。

【まとめ】
 食に関しても身体的・環境的・精神的側面から十分にアセスメントを行い、患児を取り巻く人的・物理的環境を整える事で入院中の食生活の質そのものも向上すると考えられました。

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第20回 がんの子どものターミナルケア・トータルケア研究会
(平成16年1月31日 )

抄録:一般演題2