ボスの遠聞近触
 

「私の初夢)

 電波時計のアラームで目を覚まし枕元の端末器(以後T器と略す)に手を伸ばした、 そして眠っているうちに届いている朝刊3紙の主な記事をピンディスを使って目を通した。 今日は電車で遠出しなければならないのでゆっくり記事を読んでいる時間はない。 そこで関心のある内容にチェックを付けておき後で読むこととした。 それが終ると今日の電車内で聞くためのBGM数曲をパソコンからT器に転送した。 コピーが終ると先程チェックした新聞記事を連続読みするためのボタンを押し身支度に入った。 今日着ていくものは昨夜のうちに確認してあるが念のためと思い洋服上下とネクタイにT器を近づけた。 すると新聞読み上げが中断され「色は濃いグレーです。柄は細かなチェックです」などと色柄の説明が聞こえてきた。 昔は色柄が分からず取り合わせに苦労したものだが今は本当に便利になったものである。
 身支度を終えて外に出ると真冬の冷たい風邪が頬に容赦なくつきささり思わずコートの襟を立てた。 昨夜はかなり寒かったらしく路面が所々凍っていて滑りやすい。 白杖で路肩を確認するとさくっとした感じのなかにサラッとした感触が伝わってきた。 昨晩降った雪が溶けずに残っているようだ。 慣れた道とはいえ転ばないようにと足下に注意をはらいながら駅への道を急いだ。
ところが駅まで数分という地点で工事用バリケードに行く手を阻まれてしまった。 他の道に回ろうと思いながら時計を見ると電車到着まであまり時間はない。 これでは回り道すると間に合わない。そこでコートの内ポケットからT機を取り出し右上にあるボタンを押した。 すこし待つと耳に入れたコードレスイヤホンから「お早ようございます。こちらはガイドセンターです。 サポートしてほしい内容をお知らせください」と女性の声が聞こえてきた。 早速、内臓のマイクに向かって事情を話すと「ではカメラを広角にしてまず全景を写してください」とのこと。 早速、T器内蔵のカメラを指示に従ってあちこち動かしてみた。するとバリケードの間を通り抜けられそうだと言う。 早速センターにテレサポート(テレビカメラによる遠隔支援)での誘導を頼み無事に工事現場を通過することができた。 早朝や深夜には周りに聞く人がいないことが多いので24時間体制のガイドセンターは大助かりである。
無事に改札口に到着した私は普通切符と特急券を判別するための切り込みで切符を確認しホームに出た。 ホームには電車入線のアナウンスがすでに流れていた。 点字ブロック上を目的の車両に向かって歩くとまもなく白杖に「びーっ、びっ」という振動が伝わってきた。 ここが6号車の停止位置である。電車が止まるとドアの上から「ここは6号車の前がわドアです」というアナウンスガ流れてきた。社内に入って空席を探したがあいにく空席はなさそうである。 すると「こちらが空いていますよ」と初老の男性の声。「有難うございます」とお礼を言いながらシートに身をまかせた。  3つ目の駅で特急に乗り換えるため下車した私はT器の上2つ目のボタンを押した。 すると「右へ10メートルほど進むと上り階段になります。」 「階段を降りたら左へ8メートル進と3番線への下り階段となります」などと誘導案内がT器とリンクしたイヤホンから聞こえてきた。 これは昨夜のうちに目的地までのルートを入力してあるため必要に応じナビゲートしてくれるものである。 「次の列車は積雪のため20分ほど到着が遅れます」のアナウンスを聞きながらホームどあに近づいた。 「ここは○○号車の後側乗降場所です」とガイドが流れた。 ホーム柵には点字と立体文字で車両番号が表示されている。乗車位置を確認後缶コーヒーを買い込み、ほどなく到着した電車に乗り込んだ。 通路側シートに表示されている点字とタクタイル文字で座席を探し腰をおろした。
 まずは一休みと缶コーヒーで喉をうるおし、さて今日使う資料に目を通そうとしてはたと気が付いた。 T器にデータをコピーしてくるのを忘れたのである。早速インターネット経由で自宅パソコンから資料を転送した。 しかしCDに入れた数値資料はアクセス不可能である。そこでインターネット検索となった。 少し時間はかかったもののあれこれ検索し何とか必要なデータを揃えることができた。 ほっとしたら睡魔が襲ってきた。どのくらいたっただろうか。「お客さん」という声に目が覚めた。 「切符を拝見します」「駅員の誘導は改札口まででよろしいでしょうか」と車掌さんの声。 T器にルートが入れてあるので一人で大丈夫」と応えようとしているうちに頭が徐々にはっきりしてきた。 ひょっとして今のはと座席のミニテーブルに手を伸ばすとやはりそこにはコーヒーの空缶は無い。 やはり夢だったと我に返り「はい。すみません。よろしくお願いします。」と軽く会釈をした。
 今年は鉄腕アトムの誕生した年とか。これは私の初夢でした。

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